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防衛省は「電子戦」への対策を本格的に始めた。
21世紀は戦火を交えるわけではなく人知れず始まる「見えない戦争」の時代とも言われる。
電子戦とはミサイルなどの兵器を使用せずに、電波によって相手を無力化する「見えない戦争」である。
ロシアとウクライナの対立はまさに「ハイブリッド戦争」によって特徴づけられる。
具体的には、SNSなどのインターネットメディアや既存のメディアを通じたデマ、フェイクニュース等、偽情報による社会的混乱、サイバー攻撃による重要拠点施設の活動妨害、主権による指揮命令関係を意図的に隠匿した物理的な作戦と兵器によるハイブリッドの戦いだ。
アメリカ下院議員の輸送機が中国の電子戦機に追跡された事案について動画でも解説するよ!
中国軍によるアメリカ輸送機の追跡事案
香港メディアによると2022年8月17日、中国の戦闘機がアメリカのナンシー・ペロシ米国連邦議会下院議長が乗る輸送機を追跡しようとしたものの、失敗したと報道した。
事件の概要は次の通りである。
米国連邦議会下院議長ナンシー・ペロシ氏は、台湾の蔡英文(さいえいぶん)総統と会談するため台湾へ向かった。
かねてより、台湾総統へのアメリカ下院議長による歴史的来訪に対し、中国政府は「もし実現すれば黙っていないだろう」など軍事的な対応をとることを示唆し、激しい非難を浴びせていた。
これに対し、米軍は南シナ海に配置されていた「ロナルド・レーガン」空母を中核とする機動部隊をフィリピン海に展開し、万が一の事態に備えていた。
ペロシ氏は米空軍所属のボーイングC40で台湾へ向かったとされる。
これに対し、中国側は、055型駆逐艦のレーダー及びJ-16D電子戦機でペロシ氏が搭乗するC40を追跡を試みた。
しかしながら、アメリカ空母艦載機のEA-18Gグラウラーによる電子妨害により、あえなく追跡に失敗した。
中国側の失敗は、まだ新兵器に慣れていない中国軍側の運用態勢や能力からすれば当然とも言えるとも評される。
しかし、中国側は、ペロシ氏が台湾から去った後も、1週間以上も台湾包囲演習を繰り広げている。
ペロシ氏追跡事件、及びこれに引き続く包囲演習期間を通じて、米中は激しい電子戦を主とした「見えない戦争」を行ったと見られている。
アメリカ電子妨害機 EA-18Gグラウラーの能力
ペロシ氏追跡事件において活躍したと見られるのが米中両国の現代的な戦闘機である電子戦機だ。
中国機に対して電子妨害を行ったとされるのが空母艦載機の電子戦機EA-18Gグラウラーである。
電子戦機とは、その名の通り電子戦のために設計され、そのための装備を施された軍用航空機である。
電子戦は現代戦の要である。
レーダーや無線通信といった電波通信網を通じた戦況分析判断、及び通信能力といったコミュニケーションは軍事部隊の時機に応じた実効的な軍事行動の展開に欠かせない。
現代戦における「電子戦」とは、主に、そういった電波通信網をめぐる敵部隊と味方部隊との攻防である。
防衛白書によれば、「電子戦」の概念は、味方部隊の電波通信網を守る「電子防護」、敵部隊の電波通信網を妨害電波によって破壊又は使用を困難にする「電子攻撃」、そして相手の電波の情報を収集する「電子戦支援」に分類される。
制空権の制圧が海上・地上における軍事部隊の展開に欠かせない現代戦では敵防空網の制圧作戦がいかなる軍事行動においても重要な位置付けを有する。
実際ウクライナ戦争においても、ロシアは制空権を完全に奪うことができず苦戦を強いられている。
制空権の確保や地上・海上部隊の電子戦支援を主に担うのが電子戦機の任務である。
今回活躍したEA-18Gグラウラーは米軍の電子戦機「EA-6Bプラウラー」の後継にあたる電子戦機で、電子攻撃及び電子戦支援といった任務を担うために開発された機体である。
同機は、アメリカ海軍が米ボーイング社の開発による複座型のF/A-18F ブロック2戦闘攻撃機をベースとして開発された機体であり、見た目は通常の戦闘機のように見える。
ただし、電子戦機である本機では、固定武装は省略され、本来はバルカン砲が搭載されているスペースにも、電子戦用の機器が搭載されている。
電子戦機器として戦術妨害装置、無線周波受信システム、信対抗手段セットを搭載し、敵に対して電子妨害を行い、レーダーや通信機器を無効化することがミッションである。
日本も電子戦機の導入を検討
電子戦への対策は日本でも進んでいる。
もとより電子戦概念自体は決して目新しいものでなく、軍事活動に電波が利用された当初から存在した。
第2次世界大戦においても航空レーダーや通信妨害などの電子戦は日米間において激しく争われた。
しかし、令和元年の防衛白書には「電子戦」が第1部コラムにおいて紹介され、令和2年版防衛白書では電子戦に関する各国取り組みが紹介されるなど、より進化し複雑となった現代的な電子戦への対応が改めて意識されていることがうかがわれる。
その背景には中露の能力向上があることが一般に指摘される。
ペロシ氏追跡事件にも投入されたと見られる中国側の電子戦機J-16Dは、2021年に初公開された最新鋭機であり、中国も電子戦機の開発に力を注いでいることがうかがえる。
また、ウクライナ・ロシア間における軍事作戦においては活発な電子戦が本格的に展開されている。
我が国の陸上自衛隊でも、北海道、九州・沖縄を中心に、2022年度末までにネットワーク電子戦システム装備を中核とする電子作戦隊の配置が予定されており、電子戦への対応は着々と進んでいる。
また電子戦機の導入についても、2018年ころから日本政府が導入を検討していると報じられている。
具体的な導入策は明らかにされていないが、有力な候補としてEA-18Gグラウラーのリース契約が取り沙汰されている。
また、川崎重工業が2025年度納入を目処にした開発試作契約のもとで次期電子戦情報収集機の設計を担っていることも報道されている。
電子戦機の導入
電子戦の歴史自体は古いものの、電子・通信技術の進歩によって高度化・複雑化したことでより対応が重要となっている。
現代における新兵器の主体は物理的兵器だけではない。
近隣の中国やロシアといった国家もその開発と演習・実戦への投入を通じて着実に対応を進めている。
そうした現状はペロシ氏による台湾訪問時、及びこれに続いて生じたとされる米中間の電子戦に如実に示されたといえる。
米国もEA-6Bプラウラーの後継としてEA-18Gグラウラー電子戦機を開発するなど、電子戦機の改良を重ねつつある。
我が国においても、とりわけ令和に入ってからグラウラー電子戦機の導入が検討されると同時に独自の電子戦機開発が企図されるなど、電子戦機や電子戦をめぐる状況はめまぐるしい。
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