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2001年2月9日、その痛ましい事故は起きた。
それが、「えひめ丸」と原子力潜水艦「グリーンヴィル」との衝突事故だ。
その日、アメリカ海軍の原子力潜水艦「グリーンヴィル」は体験航海のため、招待客 16名を乗せ、0時57分、母港のバールハーバーを出港し、南方の訓練海域に向かった。
「グリーンヴィル」は、ロサンゼルス級潜水艦の 22 番艦で、水中排水量 7177 トンという巨大な原子力潜水艦である。
この日は招待客に対しデモンストレーションとして緊急浮上を体験させることとなっていた。
緊急浮上とは、水中深く潜っている潜水艦のタンクに圧縮空気を放出して、一気に海面に浮上することである。
一方、えひめ丸はマグロ漁の実習のために、12 時頃、ホノルル港を出港してオアフ島の南方の漁場に向け航行中であった。
船内には生徒13名を含む 35名の乗員が乗っていた。
えひめ丸とグリーンヴィルの衝突の原因が動画でも見られるので、最後まで見てね!
この記事に書かれている内容は
えひめ丸とグリーンヴィルの衝突まで
12時7分、グリーンヴィルは予定の訓練を終え、訓練海域から反転しパールハーバーに向けて航行中であった。
12時8分 グリーンヴィルの艦長であるワドル中佐は潜望鏡を上げるために5分以内に浮上せよとの命令を下した。
規定では8分以上時間をかけて、安全を確認してから浮上する必要がある。
その後、12時32分にソーナー音により、グリーンヴィルはえひめ丸を探知している。
ソーナー音とは、潜水艦が発信する音が船体に当たって反射することで、付近の船舶の方位と距離が分かるセンサーである。
13時10分、招待客が潜水艦の発令所に集められ、午後の訓練デモンストレーションが始まった。
このとき、艦長は乗員からの報告により、えひめ丸までの距離は 9000m以上と認識していた。
狭い潜水艦の発令所に乗員と招待客を合わせて33人の人間が集まった状態で13時15分から約15分間にわたり、グリーンヴィルは急速潜航と急旋回を4回繰り返した。
また、最大深度まで潜航し、深海水を採取してガラス瓶にいれ、招待客にプレゼントするといったサービスまで行われた。
その後、えひめ丸の位置を再度、正確に把握するために、3分間は針路と速力を一定にする必要があったのだが、実際グリーンヴィルは20秒ほどしか針路を保っていなかった。
13時38分グリーンヴィルは水深18mの潜望鏡深度に達した。
その直前に、乗員はソーナー音によりえひめ丸が距離約 3600mまで近づいていることを認識していた。
規定では 4000m以内に船舶がいる場合、艦長に報告する必要があるが、この時もう1隻の船舶を探知したため、そちらの対処に気を取られていたため、艦長に報告していなかったのだ。
さらに、潜望鏡による付近の確認が行われ「近距離目標なし!」が乗員から報告された。
最終確認でワドル艦長自らが潜望鏡をのぞき船舶の確認を行っているが、通常、確認には 3分以上の時間をかけるように決められているが、この時、ワドル艦長は66秒の確認しか行っておらず潜望鏡を格納した。
しかし、このとき潜望鏡の視界の右側にえひめ丸が存在していたことに気づいていなかったのだ。
13時40分、緊急浮上のデモンストレーションのためワドル艦長は急速潜行を命令した。
みるみる内に深く潜っていくグリーンヴィル。
この時、乗員はえひめ丸との距離が約2000mまで近接していたのを認識していたにもかかわらず、艦長の潜望鏡による確認の方が正しいと判断し、距離を9000ヤードに訂正したのだ。
13時 42分、緊急浮上のためにタンクに圧縮空気が放出され、グリーンヴィルは一気に浮上を始めた。
しかも、この時グリーンヴィルを操縦していたのは、乗員ではなく招待客だったのだ。
乗員がそばで付き添ってはいたものの、1人が圧縮空気バルブの制御レバーを操作し、1人が操舵席で舵を取り、一人が警報ボタンを押すといった状況であった。
13 時43分、えひめ丸はオアフ島から9マイルの時点に差しかかったところで、突然、船体に大きな衝撃が走った。
あまりの衝撃の強さに一瞬何が起きたのか理解できない「えひめ丸」の乗員。
緊急浮上開始から50秒後、グリーンヴィルの縦舵がえひめ丸の船底をえぐったのだ。
その衝撃により、500トン足らずのえひめ丸の船内に一気に海水が入り込み、あっという間に浸水し、5分もしないうちに沈没してしまったのだ。
この事故により生徒4名を含む合計9名の乗員が行方不明となってしまった。
えひめ丸とグリーンヴィル 生存者と犠牲者
先に説明したように、潜水艦の緊急浮上は圧縮空気をタンクに送りこむことにより、海水を排出し風船のような状態になるため、いっきに浮上することができるが、一度緊急浮上を始めると途中で急に止めることはできない。
さらに、グリーンヴィルは氷の張った北極海でも行動できるように、船体や舵はかなり強度が高い設計となっている。
この7000トン以上もある頑丈な巨体が水中から一気に浮上してきて500トンのえひめ丸の船体を突き破ったのだ。
えひめ丸はただ漁場に向けてを航行していただけであり、衝突の原因はグリーンヴィル側に非があることは間違いない。
船舶同士の衝突には常に注意をしているものの、まさか、水中から巨大な潜水艦が衝突してくるとは予想外のことである。
事故から8ヶ月後、クレーン船で 600mの海底から引き上げられた「えひめ丸」は水深35m の海域まで移動され、米軍と海上自衛隊のダイバーによる船内捜索が行われた。
その結果、船内には事故で行方不明になっていた8名の遺体を発見、残る1名は発見できなかったが死亡と判定された。
生存者は12名で犠牲者は教員5名、生徒4名であった。
犠牲者のご遺体を回収し、えひめ丸の船体は他の深海に安置された。
調査の結果、えひめ丸の船底には60cmから90cmの大きな亀裂が入っており、深さは船内を突き破って3.5mにも達していた。
調査委員会の報告書によれば、沈没の原因は、グリーンヴィルの縦舵がナイフのようにえひめ丸の船体をえぐり、その傷口から大量の海水が入ったことによる沈没と発表している。
グリーンヴイルの縦舵にも、それを証拠付ける大きな傷が残されていた。
グリーンヴィルの艦長である、ワドル中佐は後に「職務怠慢」という理由で有罪と判定されており、処罰として、減給と艦長解任となったが刑事責任は問われなかった。
そして、事故から半年後に名誉除隊している。
その他、事故に直接関係した6名についても処分が下された。
事故の補償については、犠牲になった遺族と救出された乗員に対し、米軍との間で 2年後に和解が成立している。
えひめ丸とグリーンヴィルの事故について
ただ1つ疑問が残ることがある。
この事故の記録として、当時の潜望鏡の録画データは米軍側が一貫して存在していないと説明している。
また、ソーナー音の録音データについても、招待客に対しクジラの鳴き声の録音データを聞かせたにもかかわらず、えひめ丸を探知した際の録音テープは残っていないという。
これが事実なのか、意図的なものなのか真相は不明である。
ヒューマンエラーの連鎖により、安全確認を怠った結果、このような大惨事につながったのだ。
事故から20年近くが経過して、当時のことを知らない人もいれば、記憶からも薄れつつある人もいるだろう。
しかし、尊い命が失われた、この事故のことは決して忘れてはならない。
そして、この事故を後世に伝え、命の大切さをしっかりと感じてほしい。
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