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全長333mの巨大な艦艇、それがアメリカ海軍の原子力空母だ。
その長さは、東京タワーを横にした状態とほぼ同じであり、航空機のためのあらゆる設備が備わる「動く航空基地」といっても過言ではない。
乗員は航空部隊を含めると6000人にも及び、艦内は長期の作戦行動に耐えられるようにさまざまな工夫が施されている。
空母の任務は、多くの航空機を搭載し、それを護衛するイージス艦や原子力潜水艦といった「ストライクグループ」を編成して、地球上のいかなる場所においても迅速にその戦力を投入することにある。
前半と後半の2回にわたって、空母に備えられたさまざまな仕組みを動画でも解説するよ!
同時発着艦を可能にしたアングルドデッキ
1950年までの空母は船体の上に一枚の板を乗せているような直線的な甲板のみであった。
しかし、着艦時にうまく減速できない場合、飛行甲板で待機している航空機に突っ込むといった大事故が起きるリスクを抱えていた。
この問題を解決したのがアングルドデッキである。
現代の空母の甲板には2つのレーンがあり、空母後部側から斜めに延びた約270mのレーンは任務を終えて帰ってきた航空機が着艦する滑走路である。
飛行作業を終えた航空機は空母の針路に対して若干斜めに進入して着艦する。
また飛行作業がない場合は、待機する航空機の駐機場も兼ねている。
このレーンは、空母の船体に対して約9度の傾きが付けられているが、ミッドウェーのように13度の角度が付けられた空母もあった。
しかし、角度がつくほど空母の進路との差が大きくなり、着艦が難しくなるため、現在は9度になっている。
飛行作業中は着艦レーンに待機している航空機はないため、仮に着艦に失敗して減速できなかったとしても、そのまま加速して飛び立ち、旋回して再度着艦を試みるということができる。
一方、空母前部の飛行甲板が発艦用レーンとなっており、カタパルトで加速して射出する仕組みとなっている。
空母はなるべく短時間に多くの戦闘機を発艦させられるほうが戦力的に有利である。
アングルドデッキのメリットは発着艦を効率よく同時に行えるといった点が挙げられる。
着艦用のレーンは船体から左舷側に大きく飛び出しており、船体の重量バランスをとるために艦橋は、右舷側に張り出した位置に設置されている。
ちなみに帝国海軍の空母「赤木」は建造当時、発着艦の効率化を狙った複合甲板で上段が発着艦兼用、中段と下段が発艦専用という世界でも珍しい3段式飛行甲板という構造であった。
現在のアメリカ空母は全長330mを越えるとは言え、陸上の滑走路と比較すると、その距離は短い。
その短距離で発着艦を可能にするために空母に装備されているのが、カタパルトとアレスティングワイヤーという装置である。
カタパルト発進とアレスティングワイヤーによる着艦
カタパルトとは、空母の甲板上に設置され、艦載機を短距離で射出するシステムのことである。
当初はスプリングにより加速させていたが、機体の種類により加速度を変えられないことから衝撃に耐えられず、空中分解するなどの事故も起きた。
また火薬、油圧、圧縮空気などのカタパルトも開発されたが、航空機の発展にともない機体重量が重くなっていったため限界に達していた。
現在、ニミッツ級に装備されているのは蒸気の力で加速するスチームカタパルトである。
甲板上に設置された溝の上をシャトルと呼ばれる台が高速で滑り、シャトルに連結された機体が引っ張られて慣性により飛び立つという仕組みである。
甲板下には2本のシリンダーが埋め込まれており、その中を蒸気圧で押されたピストンが走る構造である。
ニミッツ級のカタパルトは、重量35トンの戦闘機を2秒で257kmという発艦速度まで加速することができ、その加速度は3.5Gに達する。
一方、飛行作業から帰ってくる航空機を停止させる装備がアレスティングワイヤーである。
カタパルトなしで甲板の傾斜を利用する、いわゆるスキージャンプ方式という方法で発艦させる空母は存在するが、アレスティングワイヤーなしで着艦できる空母は存在しない。
アレスティングワイヤーは飛行甲板上を横切る形で張られており、着艦してくる航空機の後部から下ろされたアレスティングフックを引っ掛けることで停止させる仕組みである。
ワイヤー自体は甲板上に密着しておらず、スプリングで10cmほど浮いた状態になっている。
これは確実にフックを引っ掛けることができ、かつ車輪が乗り越えられる高さに設定されている。
1本目で引っかからなかった場合に備えて、ワイヤーは間隔を空けて合計3本が張られている。
毎回1本目のワイヤーに引っ掛けられるパイロットは腕が立つといわれている。
ワイヤーは単に張られているわけではなく、アレスティングギアという甲板下の制動装置とつながっている。
制動装置の中は、水とエチレングリコールといわれる液体で満たされており、車のショックアブソーバーのような構造でワイヤーの張力を調整する。
また、機体のトラブルでフックが出せないなどの緊急事態に備えてクラッシュバリアーも装備されている。
クラッシュバリアーとブラストデフレクター
着艦してくる航空機はスロットルを絞ってエンジン出力を下げつつ進入してくる。
そして飛行甲板にタッチした瞬間に、スロットルを全開にしてエンジン出力をあげる。
なぜ、停止しなければならないのに出力を上げるのだろうか?
その理由は、どのアレスティングワイヤーにも引っかからなかった場合、そのまま飛行甲板を通過して発艦可能な速度にするためである。
出力が足りない場合、そのまま海に落下してしまう恐れがあるからだ。
フックがワイヤーに引っかかったならば、速やかにスロットルを戻して停止する。
機体のトラブルなどで、フックや車輪が降りない場合は、バリケイドにより強制的に停止させることになる。
その役目を果たすのがクラッシュバリアーだ。
飛行甲板の中央あたりに2本の支柱を立て、その間にナイロン製のバリアーが張られており、そこに向かって機体が飛び込んでくる。
ナイロンバリアーが機体に絡むことで、強制的に停止させるための緊急用装備である。
当初はナイロンではなくワイヤーが張られていたが、機体の損傷やコックピットを突き破るなどパイロットの命にも危険が及ぶため、現在はナイロン製のネットになっている。
クラッシュバリアーで停止した航空機は、まるで網にからまった鳥のような、みっともない姿をさらすことになるが、海に転落するよりはマシである。
また、甲板上にはブラストデフレクターと呼ばれるプレートが装備されている。
その機能は高温高圧のジェット排気によって、他の機体や作業員に被害が及ばないようにするための機体後方にある壁のことである。
ブラストデフレクターは防護壁の役目を果たし、ジェット排気は上方に向くため、次に発艦する機体はすぐ後ろで待機することができる。
発艦後、この壁は油圧により倒れて甲板と一体化した後、待機していた機体が前進する仕組みとなっている。
ブラストデフレクターは一枚の壁ではなく複数枚で構成され、エンジンが単発か双発かによって枚数や角度を変える。
また熱による変形を防ぐために、内部には冷却水が循環している。
今回は空母の飛行甲板の装備や仕組みについて解説してきたが、後半については空母の心臓部ともいえる原子炉の構造や炉心交換にスポットをあてて解説していこう。
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