原子力推進の夜明け「空母エンタープライズ」の誕生秘話と51年間の軌跡
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1961年、アメリカ海軍によって世界初の原子力空母が誕生した。

その名は「エンタープライズ」

この画期的な艦船が海軍史、そして世界の軍事バランスにどのような革新をもたらしたのか、驚異的な51年間の活躍とその背後にある物語を紐解いていく。

ベトナム戦争から湾岸戦争、イラク戦争までエンタープライズは数々の歴史的な戦闘に参戦した。

今回は、世界初の原子力空母エンタープライズの誕生秘話と世界に与えた影響について解説していこう。

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エンタープライズ: 原子力空母の歴史とその進化

空母エンタープライズは、アメリカ海軍が、世界で初めて保有した原子力空母である。

1961年に就役後、2012年に退役するまでの51年間という長きにわたり運用されてきた。

これはアメリカ海軍の艦艇としては最長の就役期間である。

全長342m、満載排水量89,600t、最大速度33.6ノット、搭載機数は86機からなり、乗員数は4600人である。

ベトナム戦争、湾岸戦争、イラク戦争など数々の戦闘に参加しており、アメリカの歴史とともに歩んできた海軍の象徴ともいうべき存在だ。

米海軍は当初、同型の原子力空母を建造する予定だったが、同時期に建造された通常動力型空母「コンステレーション」と比較すると、建造費が約1.7倍と高額になることがわかったため、計画は中止された。

そのため同型艦は存在せず、建造されたのは、1番艦のエンタープライズ一隻のみである。

空母の原子力推進化については1946年より検討が行われており、1951年には、空母用原子炉の正式な要件定義が作成された。

しかしその当時は、国防費を削減することが重視されており、潜水艦や駆逐艦の原子力推進化の方を優先すべきとの意見が多かった。

さらには、原子力空母計画の後継者だったシャーマン提督が1951年に死去したこともあり、この計画は中止された。

しかし、この後も海軍内では原子力空母導入に関する検討は継続されており、1954年5月、攻撃潜水艦から航空母艦まで5種類の船舶用原子炉の秘策計画が提案され、原子力委員会の承認を得ることができた。

そして1958年より運転を開始し、建造が承認された艦がエンタープライズである。

当時はまだ、空母用の大型原子炉が存在していなかったので、巡洋艦用の原子炉を改良したものが搭載されることになった。

なお、配備された当初は、ベトナム戦争が行われていたこともあり、日本では、原子力空母の入港に対して否定的な意見がでており、1968年にエンタープライズが長崎県の佐世保港に入港しようとした際には、5万人規模の入港阻止集会が開かれ、これに対処するために動員された5000人の機動隊員と衝突が起きた。

そのためエンタープライズの入港は翌日に変更されたというエピソードもある。

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原子力推進の夜明け エンタープライズの心臓部

エンタープライズの最大の特徴は、世界初となる動力に原子力が使われていることである。

これによりエンタープライズの行動距離は広大となり、数十年という長期間にわたり無給油で航行することが可能となった。

そのため洋上給油は不用となり、給油中という脆弱な状態で攻撃される危険性は低くなった。

また、これ以外にも原子力機関による利点は数多くある。

通常であれば、エンジンを運転する際に必要となる空気を取り込む給気の必要がなくなり、煙突、煙路、給気ダクトなどが不用となる。

それにより飛行甲板や格納庫の拡大、搭載機数の増加、各種電子機器の合理的な配置などができるようになった。

また、煙突からの排煙がなくなるため、飛行甲板上の気流が乱れることがなくなり、航空機の発着艦が容易となったことも利点の一つだ。

さらには、重油タンクが不用となるため、航空機搭載用燃料、弾薬、各種補給品の搭載量の増大を図ることも可能になった。

エンタープライズには、原子炉としてA2Wが8基搭載されている。

A2Wとはアメリカ海軍の原子力艦艇向けの推進・発電用の原子炉である。

核分裂反応によって起きる熱エネルギーで水を300度の高温にさせ、それを蒸気発生器に通し、そこで発生した高圧高温の蒸気をタービンに当てて発電させる方式である。

A2Wの意味は、A =航空母艦用、2= 設計担当メーカにおける炉心設計の世代、W = 設計担当メーカーとなっている。

なおこの原子炉は、各艦艇の種類により各タイプがあり、Cは巡洋艦用、Dは駆逐艦用、Sは潜水艦用と各タイプが存在している。

エンタープライズは、主発電機が計40,000KW、非常用のディーゼル発電機が計8,000KWが確保されている。

ちなみに、一つの家庭が1ヶ月に使う電気の平均は約300キロワットであることから、一般的な家庭が約11年間使う電気量と同じである。

なおA2Wの後継として開発されたA3Wは性能が向上しており、空母ジョン・F・ケネディに搭載されるために設計された。

エンタープライズが原子炉を8基搭載していたのに対して、A3Wは4基で済むため、製造コストも運用コストも低減できると期待されていた。

結果的にはジョン・F・ケネディは、原子力ではなく通常動力型の空母として建造されたため使われることはなかったが、その後に登場するにニミッツ級空母には、さらに進化したA4Wが装備されており、これは原子炉2基で艦内に必要な電力を産み出すことができる。

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エンタープライズのカタパルトとレーダーシステム

冷戦下において米海軍は、多数の空母を保有しソ連海軍と対峙してきた。

その中においてエンタープライズは、米ソ間の軍事バランスを保つことへの寄与に大きく貢献してきたと言えるだろう。

エンタープライズには、各種装備面において世界をリードするものがある。

それが、カタパルトだ。

甲板上には蒸気式のカタパルトが装備されており、これにより燃料を満載し、ミサイルや爆弾をフル装備した航空機でも余裕を持って発艦させることができた。

これにより多数の航空機の運用が可能となっている。

また、この空母の特徴として、艦首の飛行甲板最前部に「ホーン(角)」と呼ばれる出っ張りが付いていることが挙げられる。

これは「ブライドル・レトリーバー」と呼ばれており、飛行甲板のカタパルトで使用されるワイヤーに関わる装備である。

ここにワイヤーをV字の頂点がくるよう引っ掛け、ワイヤーの両端は艦載機の下部に繋いで引っ張るというものである。

射出時、艦載機が発艦するとワイヤーは機体から外れ洋上に落ちていた。

ワイヤーを再利用できるように回収するために設置されたのが、角の部分の「ブライドル・レトリーバー」だ。

しかし、この作業には危険が伴っていたため、艦載機の脚にカタパルトと直につなぐための射出バーを装備する方式が新たに考案された。

搭載レーダーについては、艦橋周囲4面に設置されていた。

このレーダーは3次元レーダーと呼ばれ、主に航空機を捜索するレーダーで、距離、方位、高度を計測できる。

探知距離は数百キロで、先進的なシステムではあったが、信頼性に問題があり、コストもかかることから1982年に撤去され、その代替として艦橋上部に2次元レーダーが搭載された。

1991年からの最後の改修で、武装は飛行甲板後部両舷にシースパローが設置された。

近接防御システムCIWS(シウス)は3基が設置され、その後の改修において1基を撤去して、RAM(ラム)近接防空ミサイルの発射機2基が設置されている。

海軍の未来への遺産 エンタープライズの退役とその後

エンタープライズは2021年に、その長い歴史の幕を閉じた。

退役後、エンタープライズは世界初の原子力空母である点を考慮して、保存するべきとの意見もでてきている。

しかし、他の艦艇とは違い原子炉を取り出す必要があり、その際に船体を切断しなければならないため解体される可能性が高い。

保存に関する議論は未だに続いているが、解体工期は2025年で完了予定となっている。

エンタープライズは、米海軍原子力空母の先駆けとして登場した記念すべき艦艇であり、軍事史における地位は揺るぎないものであると言えるだろう。

現在、米海軍はニミッツ級空母を10隻保有しているが、その後継艦としてフォード級の空母が新たに登場してきた。

従来の蒸気式カタパルトから電磁式カタパルトに変更されることを始め、各種装備が進化してきている。

艦に搭載している航空機も、時代とともに進化を続けており、当初配備されていたF14トムキャットは、その後に登場したF/A18ホーネット、そしてさらにはステルス戦闘機F35C時代へと進化してきている。

今後も、原子力空母は、さらなる発展をとげながら現代海軍戦略の中心となっていくことは間違いないであろう。

空母の建造および維持管理には多額の費用がかかり、またそれを運用して行くノウハウには長年の経験が必要となる。

現在においても原子力空母を保有している国はアメリカ以外ではフランスの一隻のみである。

中国は三隻目の空母を建造したが、その実力は米海軍と比較するとまだまだ及ばない。

そういった面において米海軍の実力は、他国を大きく引き離していると言えるだろう。

長期的に見ても将来、米海軍の空母機動部隊に対抗できるような海軍力を持つ国は現れてくることはないであろう。

そのため空母は、外国に侵略を行おうとする国に対して威嚇を行う抑止力としての役割も担っている。

そして「エンタープライズ」という艦名は次世代の空母に引き継がれることになる。

アメリカの造船会社は2022年8月27日、同社ニューポート・ニューズ造船所において新型空母「エンタープライズ」の起工式が行われた。

計画では2028年に就役予定である。

次の動画では、イスラエル近海に米空母が2隻も派遣された理由について解説しよう。

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