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海上戦力において、もっとも脅威が高いといわれるのが「海の忍者」といわれる潜水艦である。
その存在は海で囲まれた日本にとってはメリットでもあり、デメリットでもある。
敵潜水艦の優位性をいかに奪い、無力化させるかが海戦のキーともいえる。
そのため艦艇だけでなく、航空機による潜水艦の捜索、探知、攻撃を可能とする対潜航空機を各国は保有している。
今回は、空からどのようにして海中の潜水艦を探知し、攻撃を行うのか。
その方法や機体に装備されたセンサーの秘密について解説していこう。
潜水艦のステルス性!なぜ海は最強の隠れ場所なのか?
潜水艦という兵器の利点は、その存在位置の秘匿性である。
海上に浮かぶ艦艇や空をとぶ航空機はレーダーで探知されることは免れない。
いかにステルス技術が発達しても、その姿自体を消すことは不可能である。
しかし、潜水艦は、レーダーの通らない水中に存在し、その姿を目視で発見することはほぼ不可能である。
そもそも、潜水艦が姿を消せるのは広く深い海洋の存在である。
逆にいえば、これらが破られれば攻撃に対して脆弱な兵力といえる。
広い海を味方にしている潜水艦といえども、通常動力型の場合、バッテリーが減ってきたら、充電のために空気を取り込むためシュノーケルという筒を海中から出したり、攻撃前は潜望鏡により敵を最終確認したりする。
その瞬間においては、一部を海面上に浮上させるため艦艇や航空機から探知される恐れもある。
逆にそれ以外は全て水中に身を隠している。
水中で探知するために使用されるのがソーナーと呼ばれる音波である。
ソーナー音を水中に発信して潜水艦に反射してきた音を頼りに、捜索、探知、そして位置を局限して攻撃を行うのが艦艇による捜索方法である。
一方、航空機からも水中の潜水艦を探知する方法が存在する。
潜水艦の永遠の天敵「航空機」から捜索、探知する方法
航空機の最大のメリットは、艦艇と違い潜水艦からの魚雷攻撃を絶対に受けることはないという点である。
艦艇の場合、敵潜水艦との戦いで、こちらの位置がばれた場合、相手は魚雷攻撃を仕掛けてくる。
もちろん魚雷の速力はフネよりも速いため、逃げても追尾され最悪の場合撃沈される恐れもある。
しかし、航空機は常に空中を飛行しているため、潜水艦からの攻撃で撃墜されることはない。
ただし、過去に潜水艦が航空機を撃墜したという事例もある。
ドイツ海軍の有名な潜水艦であるUボートは4連装20mm機関銃を装備しており、対空攻撃により敵の哨戒機を見事撃墜したUボートも少なくはなかった。
当時Uボートは連合軍のパイロットたちから「魔の4連装」と恐れられていた。
現代においては、弾道ミサイルを搭載した潜水艦は存在するが、対空攻撃ができる潜水艦は確認されていない。
なぜなら、潜水艦の主任務は水中の隠密性にあり、そこから敵艦艇を攻撃することだからである。
航空機を活用するもう1つのメリットは、その速力を活かして短時間で広範囲の海域の捜索を行うことができる点だ。
艦艇よりも何十倍も速いスピードで移動できるため、捜索、追尾、攻撃を迅速に行うことができる。
また、艦艇の魚雷の射程外で探知した場合も速やかにその位置まで移動して、空中から魚雷を投下して攻撃する戦術も可能である。
海上自衛隊において、潜水艦を捜索して攻撃するこれらの航空機を対潜哨戒機という。
対潜哨戒機には2種類あり、翼が固定された通常の航空機が固定翼機、ヘリコプターのようにローターが回転する航空機が回転翼機である。
回転翼機は艦艇に搭載されたヘリコプターSH-60J(K)、固定翼機がP-3C及びP-1だ。
P-3Cはアメリカが開発した音響情報をコンピューターで処理するシステムを世界で初めて導入した対潜哨戒機で、50年以上も前から部隊に配備されている。
世界16カ国に採用され、周囲を海で囲まれた日本の配備数は世界最多である。
そしてP-3Cの後継機として日本が独自で開発した機体がP-1である。
エンジンはターボプロップからジェットエンジンに変わり、センサー類や機体も全て国産である。
対潜哨戒機の基本的なシステムは、空を飛びつつ水中の潜水艦を探知できる能力を有していることだ。
ソーナー、ソノブイ、MADと呼ばれる3つのセンサーにより潜水艦を探知する。
まず、対潜ヘリコプターにおいては、空中でホバリングできるという利点を活かして、ワイヤーに繋がれたソーナーを水中に沈め、そこから音波を送信して潜水艦
の船体に反射した音をキャッチすることで位置を特定する「吊下式ソーナー」を装備している。
探知がなければ移動して、次のエリアを捜索といったように広範囲を次々と捜索できる。
そして、回転翼機と固定翼機の両方に装備されているのがソノブイとMADである。
ソノブイとは筒状のセンサーを海中に何本も投下して、潜水艦の音を収集するいわばマイクロフォンである。
ソノブイを投下する海域に近づくと高度を150m程度まで下げ、狙ったポイントに投下する。
海に落下したソノブイは海水によりセンサーが目を開くことで潜水艦のスクリュー音やエンジン音を収集し機内のコンピューターに周波数として表示する。
複数のソノブイを設置することで、徐々に潜水艦の位置を局限していき、最終的に魚雷を投下して攻撃を行うのが一般的な戦術である。
一方、MADと呼ばれるセンサーは磁気異常探知装置と呼ばれるもので、潜水艦の船体が発生する微弱な磁気を探知するセンサーである。
潜水艦の船体は高い水圧に耐えられるように鋼鉄製の素材で覆われてる。
それによって引き起こされる地磁気の乱れをとらえることで潜水艦の位置を特定するというものだ。
ソーナーによる音波探知の場合、その物体が潜水艦である確率は100%ではない。
海底の地形や海中生物、海水の状況によって送信した音が反射してくる場合も多くある。
しかし、MADが検知した場合は、潜水艦である確率は100%に近いため、すぐさま攻撃に移行することができるほど信頼性が高いセンサーなのである。
このようにソーナー、ソノブイ、MADの3つのセンサーを活用することで、空を飛ぶ航空機から水中に隠れた潜水艦を探知することができるのである。
一方、日本周辺にはオホーツク海を除く、3つの海洋が存在しており、それぞれ潜水艦の作戦行動が異なっている。
太平洋、日本海、東シナ海の特性と潜水艦の行動
太平洋海域は水深が深くエリアも広いため、潜水艦の行動の自由度が大きい作戦海域といえる。
対潜航空機であれば、広域の捜索が効率的に実施できるが、艦艇だけで捜索するには、あまりにも面積が広すぎる海域である。
一方、日本海は侵入経路が東と西に限定されるため、太平洋と比較すると位置が特定しやすい海域といえる。
しかしながら、中国、ロシア、北朝鮮などの潜水艦が活動している可能性が高いことから、確実な識別が重要になってくる。
水中の潜水艦の識別を行うために必要なのが音紋である。
音紋とは、それぞれの潜水艦が出エンジン音、スクリュー音、モーター音などの特有の音(ノイズ)のことで、これを分析することで、どの国のどの潜水艦といった
タイプまで識別することができる。
この音紋を目頃から収集しているのが海上自衛隊の音響測定艦である。
この音紋データを照合するこで、探知した潜水艦のタイプや国を識別することが可能となる。
音響測定艦については、他の動画で解説しているのでそちらをご覧いただきたい。
そして、東シナ海においては、中国大陸から伸びた比較的浅い大陸棚がひろがる海域である。
東南アジアからの民間船舶や漁船が非常に多く、これらの音が複雑に水中に伝わるため、潜水艦の識別が難しい海域でもある。
そのため、攻撃においても慎重に行う必要がある。
近年、海洋進出が目覚しい中国は東シナ海のこれらの特性を利用して潜水艦を進出させる意図が見られる。
過去に国籍不明潜水艦が日本の領海に侵入し海上自衛隊が追跡を行っているが、これは音紋分析の結果、中国の漢(ハン)級原子力潜水艦であると断定された。
太平洋、日本海、東シナ海の3つの海域特性から海上自衛隊の対潜能力は深海から浅海まであらゆる海域に対応できる能力が求められる。
日本の対戦能力が高いのは、こういった環境に囲まれているというのも理由の1つといえるだろう。
次の動画では、海自隊員も知らない「音響測定艦」の極秘任務について解説しよう。
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